オーストラリアの永住権取得と国籍取得の違いは?
やっと手に入れた念願の永住権。4年後にはオーストラリアの市民権を申請する権利も発生しますね。ここで、きちんと把握しておきたいのが、永住権と市民権の違いについてではないでしょうか。
この先、永住権のままだと不都合はあるのか、市民権を取得したらパスポートはどうなるのか、オーストラリアで生まれた子どもはどちらの国籍になるのか、不安は尽きません。そこで今回は、永住権と市民権について解説します。ぜひ参考にしてください。
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目次
オーストラリアの永住権と市民権の違いは?パスポートはどうなる?
オーストラリアでは、永住権や永住ビザのことをPR(Permanent Resident)と呼び、オーストラリアに無期限で永住する権利が与えられています。この章では、永住権と市民権の違いについて解説します。
永住権のメリット・デメリット
永住権の最大のメリットは、日本のパスポートのままでオーストラリアに無期限で滞在できることです。他にも、永住権を取得すると以下のようなメリットがあります。
- 国民健康保険(Medicare)に加入できる
- 社会保障制度(Centrelink)に加入でき、失業保険など生活補助を受けられる
- 家を購入する際の助成金として、初めての場合1万ドルの給付金が出る
- 住宅ローンなどを組む際に、Credit信用格付けがもらえる
- 10年以上住んでいれば、老後の年金も受給される
ただし、永住権の申請料は4,115AUDですが、5年おきに460AUDを払ってリターンビザを更新する義務があります。また、更新条件として、5年のうち2年以上はオーストラリアに居住する義務があります。
公務員になれない、選挙権・参政権がないなどのデメリットはあるものの、永住権を取得することでビザによるストレスから解放されるメリットは大きいでしょう。また、4年以上オーストラリアに住めば、市民権を申請する権利も得られます。
市民権のメリット・デメリット
市民権を取得するということは、すなわちオーストラリアの国民になることを意味します。市民権を取得すれば、リターンビザを5年おきに更新する義務は解消され、コスト減にもなります。さらに、市民権を持つことで以下のような権利が得られます。
- オーストラリアの国籍とパスポートが得られる
- 選挙権など公的な権利が得られる
- 国家公務員など公的な職業に就ける
永住権ではオーストラリアの国政に何の影響も与えられませんが、市民権保持者には、選挙権があり、政府関連の職にも就労できます。他にも市民権を持つことで移民法改正の影響を受けず、世界中どこで子どもを出産しても市民権を与えられるメリットもあります。
具体的には、オーストラリア市民権を取った方がよい人とは、次のような場合です。
- 国会議員や国家公務員など公の職に就きたい人
- 育児休暇などオーストラリア人と同様の職場環境で働きたい人
- 選挙権や参政権などオーストラリアでの市民権を得たい人
ただし、法改正は不定期に行われるため、市民権に関しての詳細は、移民局サイトで最新情報を随時確認するようにしてください。
パスポートはどうなる?
日本は二重国籍を認めていないため、オーストラリアの市民権を取得すると、日本国籍を喪失することになります。同時に日本のパスポートも失効します。
ここで注意したいのは、一度自分の意思で失効した日本のパスポートを取り戻すのは大変で、帰化するのに時間と手間が想像以上にかかることです。この先、第二・第三のパンデミックが起こった場合、日本のパスポートがないとビザなしで帰国できないなど不測の事態もあるかもしれません。
一方、永住権保持者は、海外に居住しながら国籍やパスポートは保持できます。日本の国籍は世界的に信頼性が高く、ビザなしで全世界約190カ国に入国できる強みもあります。特別な理由がない限り、日本国籍を捨ててまで市民権を得るメリットは少ないでしょう。
オーストラリアの年金はもらえる?
オーストラリアの市民権を取得していれば、将来年金を受け取ることができます。
ただし、オーストラリアの永住権でも10年以上(そのうち5年間連続して)住んでいれば年金をもらう資格があります。その際は、在オーストラリア日本大使館にて10年以上の居住証明書を発行してもらいましょう。
具体的な受給額については、政府のウェブサイト「Pensions-Fortnightly」を参照してください。例えば、単身者の場合、約1,026オーストラリアドルが月々の受給額として示されています。
日本人に「永住権」取得が多い理由は?
オーストラリア在住の日本人には、永住権保持者が多いと言われています。この章では、その理由を考察します。
まず、日本は二重国籍を認めていません。そのため、オーストラリアの市民権を得ると日本国籍を喪失してしまいます。永住権なら日本の国籍を維持できるので、親の介護などの理由で日本に帰国する場合でもビザの必要なく滞在できます。
日本で10年以上働いた経験がある人は、将来的に日本の年金受給の有無にも関係するため、国籍を変えたくないと考える人もいるでしょう。
市民権を持つ利点は「公的な権利が得られる」ことと「公的な職業に就ける」ことの2点です。市民権を得ると、選挙権を与えられ、陪審員制度を通じて、裁判にも参加できます。
また、オーストラリアの安全保障に関わる仕事、たとえば警察などに就く権利が与えられます。国会議員に立候補する資格が与えられ、連邦政府、州政府の仕事に就くこともできます。
ただし、「権利」が与えられれば「義務」も発生します。たとえば、選挙で投票できる権利が与えられると同時に、必ず選挙にいかなければならないという義務が生じます。また、必要が生じた場合はオーストラリアの防衛に携わる責任が与えられます。
良い悪いは別として、選挙に行かないと罰金が科せられるような義務を受け入れる人や、政治家など公的な仕事に就きたいと思う人がどれほどいるかはわかりません。何か特別な理由がない限り、「永住権はともかく市民権までは必要ない」と思う人がいても不思議ではないでしょう。
オーストラリアで生まれた子どもはどちらになる?
オーストラリアで生まれた子どもはオーストラリアと日本のどちらの国籍を取得できるのでしょうか。市民権と永住権では違いがあるのでしょうか。この章では、オーストラリアで生まれた子どもの国籍やパスポートについて解説します。
出生届について
オーストラリアは条件付出生地主義を採っています。オーストラリアで出生した子どもは、両親どちらかがオーストラリアの市民権又は永住権を有している場合、自動的にオーストラリア国籍を取得できます。
また、日本で生まれた子どもについては、両親のどちらかが市民権を持っていればオーストラリアの国籍を取得できます。
ただし、出生した子どもについて日本国籍を留保したい時は、父または母が出生届書「日本国籍を留保する」欄に署名、押印し、3カ月以内に大使館または総領事館に届け出る必要があります。3カ月を過ぎると出生届は受理してもらえませんので注意が必要です。
なお、国籍留保した子どもは二重国籍となるため、20歳に達するまでにいずれか一方の国籍を選択することになります。
永住者の子どもは、オーストラリアで産まれた場合のみオーストラリア国籍が持てるので注意してください。その際、公立病院での出産費は無料です。オーストラリア国籍の場合、学費は国内学生と同じというメリットもあります。
「永住権を持つ日本人」か「日系オーストラリア人」か、機を見て選ぼう!
今回は、永住権と市民権の違いについてお伝えしました。永住権を手に入れたら、いずれじっくり考えたい市民権ですが、権利と義務を整理することでメリットとデメリットが明確になるでしょう。
もし将来的に日本に帰国する予定がなく、オーストラリアに永住したいのであれば、市民権を取得することが良い選択となるでしょう。一方で、日本での就職や将来的に日本に帰る可能性を残したい場合は、日本の国籍を捨てることは避けるべきでしょう。
将来設計と照らし合わせて、自分とオーストラリアとの関わりを一度じっくり考える機会を持つことは大切です。「永住権を持った日本人」としてオーストラリアに滞在したいのか、「日系オーストラリア人」として生きていくのか、よく考えて選択してくださいね。
出典:オーストラリア市民権
https://immi.homeaffairs.gov.au/?tilegroup=Australian%20citizenship